プロローグ
 
 男の目には、すでになにも映ってはおらず。
 ただ、その意識が虚ろへと堕ちていくのと共に光が失われていくのが見て取れるだけだ。
 誰が為の剣か。
 男の口が言葉を紡ぐ。 
 男が幼い頃から何度も繰り返し読んでいた物語の台詞。
 自分はそれを知っている。
 もう二度と光を映すことのない、女の両目から幾筋もの涙が流れ落ちる。
 三人で、未来の話をしたよね。
 女の口が、遠い昔の思い出を語る。
 自分はそれを知っている。
 なぜか。
 自分は、その二人と長い時を過ごしたからだ。
 自分の手には長剣が握られている。
 その切っ先から、血が滴り落ちて虚空に散っていく。
 他の道は無かったのか。
 自分の口が後悔を吐き出す。
 そう、後悔だ。
 もう、取り戻すことはできない。
 失われてしまった。
 過ぎ去ってしまった。
 自分が奪ってしまった。
 もう、帰ってこない。
 自分のせいか。
 自分のせいだ。
 自分が彼らとの時間を裏切った。
 どうしたらいい。
 どうしたら。
 どうすれば……。
 わからない……。
 誰か。
 
 誰か……教えてくれ…………。
  • 護りの刃目次へ戻る
  • inserted by FC2 system